大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(う)6196号 判決

控訴人 被告人 宮本昌林こと李昌林

弁護人 脇田久勝

検察官 大越正蔵関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及びその弁護人脇田久勝各提出の控訴趣意書記載のとおりであるが、これに対し当裁判所は左のとおり判断する。

弁護人脇田久勝の控訴趣意第一点について、

苟くも刑の言渡をする以上、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならないことは、刑事訴訟法第百八十一条第一項の規定するところである。そのいうところの訴訟費用とは、被告事件が裁判所に繋属した時からその終了に至るまでに手続上生じた費用のことであるから、仮令裁判所において一旦無罪を言い渡したとしても、当該裁判所に対する検察官の控訴の申立により破棄差戻となつた後における審理の結果改めて有罪として刑の言渡をする以上その差戻前後の如何を問わず一、二審を通じ当該被告事件につき要した訴訟費用の全部又は一部を被告人に負担させることができるものと言わなければならない。従つて原審が差戻前無罪の言渡をしてい乍ら、これに対する検察官の控訴申立の結果破棄差戻となつて審理の上改めて有罪として刑の言渡をした以上、同時にその差戻前の第一審及び控訴審における訴訟費用をも被告人に負担させたからといつて、何等批議さるべき限りではない。論旨は採用し難く理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰 判事 河原徳治)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は判決に影響する法令の適用の誤がある。

本件は、差戻前の第一審は無罪その控訴審は審理不尽で破棄差戻となり、共に刑の言渡がなかつたのであるが差戻後の第一審である原審は、刑事訴訟法第百八十一条第一項の適用を誤り刑の言渡のない差戻前の第一審並びに控訴審の訴訟費用を不当に被告人に負担せしめた。その判決に影響することは明らかである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例